相続で資産継承を成功させるには

――投資家が考える「本当にうまくいく資産継承」のかたち

「子どもに何を残すべきか」。
これは資産を築いた人間ほど、避けて通れない問いだ。

多くの人はこの問いを、
「いくら残せば安心か」
「どう節税すればいいか」
という金額や制度の話として考える。

だが投資家として長く市場を見てきた立場から言うと、この問いの本質はそこではない。

本当に重要なのは、“どう渡すか”“いつ渡すか”“何を先に渡すか”この順序の設計のように思う。


最後に「資産だけ」が渡ることの危うさ

相続という形で、人生の最後に資産だけが一気に子どもへ渡る

一見、最も自然で公平な方法に見える。
だが、実際にはこの形こそが、最も失敗確率が高い。

なぜか。

その時点で子どもは、

  • 資産のうまい使い方を知らない

  • どう守るかも分からない

  • どう増やすかも分からない

  • そもそも、なぜこの資産が存在しているのかを知らない

結果として起きるのは、

  • 消費で減る

  • 判断ミスで失う

  • 怖くなって何もしない

どのパターンでも、資産は減り、人としての成長も止まる


「資産を渡す」と「人生を引き継ぐ」は別物

ここで重要なのは、資産を渡すことと、人生を引き継ぐことは全く別だという点だ。

資産を作った人は、

  • 数え切れない意思決定をして

  • 失敗を経験し

  • 修正し

  • 時間をかけて積み上げてきた

だが、その思考・経験・判断軸は、
黙っていても自動的に子どもへ移るわけではない。

だから、「資産だけが残る」という状況が生まれる。

これは投資の世界で言えば、取扱説明書なしで巨大なポジションを渡すようなものだ。


正しい継承は「順序」がすべて

うまくいく資産継承には、順番が必要のように思う。

❌ お金 → 経験 → 思考
思考 → 経験 → お金

この順番を間違えなければ、成功確率は大きく上がる。

正しいステップはこうだ

  1. 考え方を伝える

    • お金は道具である

    • 壊れないことが最優先

    • リターンはリスクの対価

  2. 小さな経験を積ませる

    • 成功も失敗も含めて

    • 親が見ている範囲で

  3. 振り返りと言語化

    • なぜそう判断したか

    • 何が間違っていたか

  4. 管理できるサイズの資産を預託

  5. 裁量を徐々に広げる

  6. 最後に形式的な相続が来る

相続は「始まり」ではなく、
すでに終わっているプロセスの確認作業に近い。


「5%を預託する」という考え方

もし子どもが「投資家になりたい」という道を選ぶなら、僕の思う現実的で健全な方法がある。

それが、

家全体の資産の5%程度を預託し、運用を任せる

というやり方だ。

この5%という数字が絶妙なのは、

  • 家計全体では致命傷にならない

  • 子どもにとっては本気になる金額

  • 失敗しても修正が効く

  • 成功しても慢心しにくい

投資家の言葉で言えば、破産しないサイズで、感情が動く金額


「給与を発生させる」ことの意味

さらに重要なのは、単に運用結果を見るのではなく、運用に対して給与や報酬を発生させることだ。

これにより、

  • 投資と生活を切り分けられる

  • 無理なリスクを取りにくくなる

  • 短期的な勝ち負けに振り回されない

これはプロ投資家の感覚そのものだ。

「儲かったから全部使う」ではなく、「運用という仕事に対して報酬がある」という構造を体で理解できる。


成功も失敗も「制度化」する

重要なのは、儲かったかどうかではない。

見るべきなのは、

  • ルールを守ったか

  • 想定外にどう対応したか

  • リスク管理ができていたか

  • 説明責任を果たせるか

たとえ結果がマイナスでも、

  • 仮説が妥当だった

  • 損失が限定されている

  • 判断プロセスが説明できる

こうした場合は、預託資金を増やす判断も十分あり得る

逆に、儲かっていても無謀なら、増やさない。

これはファンドの世界と全く同じだ。


なぜ「一気に渡す」と成長が止まるのか

資産が突然渡ると、人はこうなる。

  • 失敗できない

  • 挑戦する理由がなくなる

  • 意思決定を学ばない

一見恵まれているが、実は成長の文脈を奪われた状態だ。

投資で言えば、経験値ゼロの状態で最大レバレッジを与えるのと同じ。

失敗するか、何もしなくなるか、そのどちらかになりやすい。


相続とは「引き渡し」ではなく「卒業式」

本来の相続とは、

❌ 最後に資産を渡すイベント
もう一人で扱えると確認した上での卒業式

だ。

  • 親がいなくても判断できる

  • 資産が減っても立て直せる

  • 増やせなくても守れる

この状態になって、初めて「では、形式的に移しましょう」となる。


子どもが違う道を選んでも、それでいい

最終的に、子どもが投資家にならなくてもいい。

  • 研究者でも

  • 技術者でも

  • 全く違う道でも

ただし、

  • お金に振り回されない

  • リスクを理解できる

  • 自分で選択できる

この状態だけは、必須だ。


残すべきは「資産」ではなく「資産を扱える人」

投資家としての結論は、極めてシンプルだ。

資産を残すのではなく、
資産を扱える人を育てる

それができていれば、

  • 資産は増えてもいい

  • 失っても立て直せる

  • どんな人生を選んでも失敗しない

相続とは、お金の話ではなく、人生設計の話なのだと思う。