――お金よりも価値が複利で増えるもの
投資家として長く市場と向き合っていると、「資産とは何か」という問いに何度も立ち返ることになる。
株式、債券、不動産、暗号資産。どれも確かに資産だが、人生全体で見たときに本当に残すべき資産は何なのかという問いは、また別の次元にある。
とくに子どもを持つと、この問いは急に現実味を帯びてくる。
「いくら残せば安心なのか」
「お金を残すことは、本当に正解なのか」
「自分がいなくなったあと、何がその子を支えるのか」
これは相続の話ではなく、教育と人生設計の話だ。
ウォーレン・バフェットが語る「与えすぎない相続」
ウォーレン・バフェットは、子どもへの相続について非常に象徴的な言葉を残している。
「子どもには、何でもできるほど多くは与えない。しかし、何もできないほど少なくも与えない」
この言葉は、単なる謙遜ではない。
バフェットは一貫して、「お金そのものは幸福を保証しない」「むしろ与えすぎは成長の機会を奪う」と語ってきた。
彼が子どもに本当に残そうとしているのは、巨額の資産ではなく、自立できる思考と環境だ。
これは、投資家として市場を見続けてきた人間だからこそ到達した結論だと思う。
資産①:お金は「結果」であって「目的」ではない
もちろん、最低限の経済的な基盤は重要だ。
教育費、挑戦のための余力、失敗しても立ち上がれるクッション。
だが、お金はあくまで結果としての資産であって、目的ではない。
多くの投資家が共通して語るのは、
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お金は使い方で価値が決まる
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お金があることで「選択肢」が増える
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しかし、お金だけでは選択はできない
という点だ。
選択できるかどうかを決めるのは、思考・経験・視点である。
資産②:思考力 ―― 世界をどう見るか
投資家がもっとも重視する資産、それは思考だ。
チャーリー・マンガーは、「メンタルモデル(思考の枠組み)」の重要性を繰り返し語っている。
一つの知識ではなく、複数の視点を持つことで、世界の見え方が変わる。
子どもに残すべきなのは、
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正解を探す力ではなく、問いを立てる力
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勝ち負けよりも、構造を理解する視点
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感情と事実を切り分ける習慣
これは学校のテストでは測れないが、人生では極めて強力な資産になる。
資産③:ビジネス感覚 ―― 価値はどこから生まれるか
多くの成功した投資家は、ビジネスの理解を何よりも重視する。
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誰に
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何を
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どのように届け
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なぜお金が生まれるのか
この問いに答えられない投資は、単なる投機になる。
子どもにとっても同じだ。
将来、起業するかどうかは関係ない。
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価値は「誰かの役に立つこと」から生まれる
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対価としてお金が動く
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継続するには、仕組みが必要
この感覚を持っているだけで、社会の見え方は大きく変わる。
資産④:チャレンジ精神 ―― 失敗できる力
意外に思われるかもしれないが、多くの投資家が子どもに身につけてほしいと語るのが、失敗できる力だ。
投資の世界では、
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100%勝つことは不可能
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重要なのは「致命傷を避けること」
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小さな失敗を重ねて学ぶこと
これと同じ構造が、人生にもある。
子どものうちに、
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小さな挑戦
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小さな失敗
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小さな修正
を経験できる環境は、何よりの資産になる。
「安全すぎる人生」は、実はリスクが高い
興味深いことに、著名な投資家ほど、「失敗を過度に避けること」をリスクだと考えている。
なぜなら、
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変化のない環境では耐性が育たない
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想定外に弱くなる
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一度の失敗で立ち直れなくなる
からだ。
だからこそ、若いうちの失敗は、安い。
これは投資の世界では常識だが、教育の場では忘れられがちだ。
残すべきものは「選べる状態」
ここまで整理すると、子どもに残すべき資産は、こう言い換えられる。
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十分だが過剰ではない経済基盤
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世界を構造で見る思考
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価値の生まれ方への理解
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失敗を恐れない挑戦経験
これらはすべて、将来を自分で選べる状態をつくるための資産だ。
子どもが違う道を選んでもいい
大切なのは、子どもが「親と同じ道」を選ぶことではない。
投資家になる必要もないし、ビジネスをやる必要もない。
だが、
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選ばされる人生
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流される人生
ではなく、選べる人生であってほしい。
ウォーレン・バフェットが、自分の子どもに残そうとしたのも、きっとこの一点だったのだと思う。
お金は、いずれ形を変える。
制度も、税制も、通貨も変わる。
だが、思考・視点・挑戦する力は、どんな時代でも価値を失わない。
それこそが、投資家が本当に残すべき「資産」なのだと思う。