ヨーロッパ(EU)における富裕税・資産課税の“いま”—国別に徹底整理

まずは全体像

  • 個人の資産全体に恒久課税

    • スペイン:地域資産税(IP)+全国のITSGF(連帯税)。

    • オランダボックス3(預貯金・投資の「みなし利回り」に対する課税)。2025年は新ルールへ移行中。

  • 限定資産に対する資産課税

    • フランス不動産富裕税(IFI)=不動産に限定。

    • ベルギー有価証券口座税(年0.15%)

    • イタリア:居住者の海外不動産=IVIE海外金融資産=IVAFE。一部は2024年以降引上げ。

    • ポルトガルAIMI(高額不動産への追加課税)。

  • その他:報告義務や法人富裕税等

    • スペインの国外資産報告(Modelo 720)やイタリアのRW様式など、申告・報告義務は別途存在。本文末に補足。

    • ルクセンブルク純資産税は法人向け


国別詳細

スペイン(Spain)

枠組み

  1. 資産税(Impuesto sobre el Patrimonio=IP):居住者は全世界資産、非居住者はスペイン内資産が対象。各自治州が控除・税率を設定(国の標準スケールは0.2%〜3.5%・基礎控除70万€が目安、メインホーム30万€控除など)。自治州により実質ゼロの地域もある(例:マドリード、アンダルシアなどは軽減/免税を実施してきた)。申告は原則資産総額が200万€超でも必要。

  2. 大富豪連帯税(ITSGF):国が課す全国補完税3,000,000€超の超過部分に1.7%(〜5.3M)/2.1%(〜10.6M)/3.5%(10.6M超)。当初“暫定”だったが2025年も継続(2024年に延長が決定)。IPとの二重課税調整あり(自治州でIPを払っていれば限度内で相殺)。

メモ:2023年はITSGF導入効果で資産税納付者が大幅増。地域の免税を国税で補完する設計が実効性を高めた。

対象・評価・出し分けの実務

  • 金融資産・不動産・貴金属・アート等、個人の純資産がベース(負債控除可)。自治州で控除・上限・軽減の差が大きく、居住地選定で実効負担が変わる。


フランス(France)

不動産限定の富裕税=IFI

  • 正式名称Impôt sur la Fortune Immobilière(IFI)。2018年以降は不動産のみが対象(金融資産は対象外)。

  • しきい値:正味不動産資産が€1.3M超。累進0.5%〜1.5%。居住者は世界中の不動産が対象、非居住者はフランス国内不動産のみ。メインホームの30%評価減や負債控除等の特則あり。


オランダ(Netherlands)

預貯金・投資に対する“ボックス3”(実質的な資産課税に近い所得課税)

  • 個人所得税のBox 3で、**資産残高に対する“みなし利回り”**を毎年設定し、その“みなし所得”に税率をかける制度。

  • 2025年仮計算の想定利回り銀行預金1.44%投資その他5.88%負債控除2.62%(年により見直し)。制度自体は資本成長課税への改革が進行中。

実務的には「残高の大きい投資アロケーションほど実効税負担が上がりやすい」構造。居住地の最適化・資産配分の見直しが効く。


ベルギー(Belgium)

有価証券口座税(TACT/TSA)=0.15%

  • **平均残高が100万€超の“証券口座”**に、年0.15%を課税。複数口座があれば合算判定。回避行為防止規定も整備。


イタリア(Italy)

海外資産を持つ“イタリア居住者”への資産課税(印紙税型)

  • IVIE(海外不動産):原則0.76%2024年分から1.06%に引上げ(特にUK不動産などが明示例)。評価と二重課税調整に注意。

  • IVAFE(海外金融資産):通常0.20%。ただしタックスヘイブン等“優遇税制国”に保有する金融商品は0.40%(2024年分以降)。海外預金口座は**年定額34.2€**の取り扱いが一般的。

ポイント:イタリアは「居住者の海外資産に対する薄い資産課税」を採用。RW様式(海外資産の申告)など申告実務も重なるため、移住前に棚卸し必須。


ポルトガル(Portugal)

富裕税はないが、高額不動産へのAIMIあり

  • AIMI(Adicional ao IMI):評価額(VPT)合計が**€600,000超の個人に0.7%€1M超は1%€2M超は1.5%。法人は0.4%。IMI(通常の固定資産税0.3%〜0.5%[都市部]/0.8%[農地])に上乗せ**される。

併せて知っておく:NHR(優遇レジーム)は縮小・改正方向だが、富裕税そのものはなし。ただし不動産価格上昇でAIMIの対象入りが起こりやすいのが近年の実感。


ルクセンブルク(Luxembourg)

  • 個人の富裕税なし法人に対して純資産税(Net Wealth Tax)を適用(2025年から最低額が累進スケール化)。個人がホールディング会社を使う場合は会社側に負担が生じ得る。


よくある誤解と落とし穴(EU版)

  1. 「EU=どこでも富裕税」ではない
    実際に**“個人の資産全体”**を毎年課税する国は限られる。スペイン、オランダ(形は所得課税)、不動産限定のフランスが柱。

  2. 「金融資産だけ掴まれる国」もある
    ベルギーは口座残高で0.15%、イタリアは居住者の“海外金融資産”にIVAFE

  3. 「不動産だけ重い国」もある
    フランス(IFI)・ポルトガル(AIMI)は不動産偏重現金・株だけ持つ場合と不動産厚めでは負担が違う。

  4. 「延長・改正」に振り回されやすい
    スペインのITSGFは“暫定”の名目から事実上の継続へ。方針転換が起きやすいので年次で再点検が必要。


実務ナビ:投資家が押さえるべき設計ポイント

  • (A)資産構成×国のクセ
    不動産中心ならフランス・ポルトガルで負担増余地。上場株・ファンド中心ならベルギーの0.15%やオランダBox3、またイタリアが効いてくる。

  • (B)居住地(タックス・レジデンス)の線引き
    スペインは自治州差が極めて大きい(控除ゼロに近い州もあれば、高い控除の州も)。長期の実効居住地次第で負担が激変。

  • (C)“国外資産税”のある/ない
    イタリア居住を選ぶなら、IVIE/IVAFE対象となる海外資産の割合・保有場所(**0.4%対象の“優遇税制国”**に該当しないか)を事前に要チェック。

  • (D)報告義務の重さ
    スペイン(Modelo 720)、**イタリア(RW)**等、高額罰則の報告制度は税そのもの以上に“運用コスト”が重い。


主な税のスペック早見(個人向け・2025年時点)

  • スペイン(IP/ITSGF)

    • IP:資産税(地域税)。標準スケール0.2%〜3.5%、控除70万€+主居住30万€(地域差)。資産総額200万€超なら控除後ゼロでも原則申告。

    • ITSGF3M超に1.7%/5.3M超に2.1%/10.6M超に3.5%2025年も継続。IPと相殺調整あり。

  • フランス(IFI)

    • しきい値:正味不動産**€1.3M超**。**0.5%〜1.5%**累進。居住者=世界の不動産、非居住者=仏国内不動産。

  • オランダ(Box 3)

    • 2025想定利回り:預金1.44%/投資5.88%/負債控除**2.62%**を基準に“みなし所得”課税。制度改革中。

  • ベルギー(有価証券口座税)

    • 平均残高1,000,000€超の口座に0.15%。合算・回避防止規定あり。

  • イタリア(IVIE/IVAFE)

    • IVIE:居住者の海外不動産1.06%(2024年分から引上げ)。

    • IVAFE:居住者の海外金融資産0.20%“優遇税制国”保有は0.40%(2024年分〜)。海外預金は年**€34.2**が一般的。

  • ポルトガル(AIMI)

    • 個人VPT合計€600,000超で0.7%、€1M超1%、€2M超1.5%。通常のIMI(0.3%〜0.5%/0.8%)に上乗せ

  • ルクセンブルク(参考)

    • 個人の富裕税なし。法人の純資産税(2025年から最低額が累進)。


まとめ—“どこに住むか”で手残りは別物になる

  • 不動産厚めなら:フランス(IFI)、ポルトガル(AIMI)で実効負担が跳ねやすい。

  • 上場株・投資厚めなら:ベルギーの0.15%やオランダBox3、スペインIP/ITSGFの閾値設計がカギ。

  • グローバル資産を持つ居住者なら:イタリアのIVIE/IVAFEやスペインModelo 720等の申告・罰則まで含めて“総コスト”で判断を。

最後に:ここで触れた税は制度変更が頻繁です。実際、スペインのITSGFは“暫定”→継続の流れ、オランダBox3は改革途上、イタリアIVIE/IVAFEは直近引上げが入っています。移住・拠点変更の前に直近年の条文・通達現地専門家で再確認するのが鉄則です。

私個人的には、オランダと今のスペイン、そして再度富裕層税を開始しかねないフランスには居住するのに躊躇してしまいます。