日本の高所得者や富裕層が、経済的・税制的な理由から海外に移住するケースが増えている。世界的にグローバル化が進み、国境を超えた移動が容易になった現在、より良い環境を求めて日本を離れる人が少なくないのは当然の流れだ。しかし、日本政府の対応は、彼らを引き留める「太陽政策」よりも、むしろ締め付けを強化する「北風政策」に傾きがちである。
このままでは、日本にとって必要な人材や資本が流出し、経済の活力が失われてしまうのではないか。果たして、日本の政策は正しい方向に進んでいるのだろうか?
1. なぜ高所得者・富裕層は日本を離れるのか
1-1. 重税負担と経済的合理性
日本は累進課税の国であり、高所得者ほど税負担が重い。所得税の最高税率は45%、住民税と合わせると最大55%にも達する。さらに、法人税、相続税、贈与税なども高水準で、特に相続税の最高税率は55%と、世界でも最も厳しい水準の一つだ。
一方で、シンガポールやドバイ(UAE)、モナコなどの国々では所得税が極めて低いか、あるいは存在しない。また、相続税や贈与税のない国も多く、資産を守るためには海外移住が合理的な選択肢となる。
1-2. 社会保障の不均衡
日本の社会保障制度は「現役世代が高齢者を支える」という仕組みになっているが、少子高齢化の影響で負担が増加している。高所得者層は、社会保険料や年金の支払い額が大きいにもかかわらず、将来的な受益が不透明なため、日本の制度に疑問を持つ人も多い。
1-3. ビジネス・投資環境の違い
日本は規制が多く、スタートアップや投資の自由度が低い。例えば、シンガポールでは法人税率が17%と低く、企業設立もスムーズに進む。投資においても、海外の方が柔軟な制度を採用しているケースが多く、投資家や起業家にとっては海外の方が有利な選択肢となる。
2. 出国税や富裕層増税──北風政策のリスク
2-1. 出国税の導入
2015年には一定の資産を持つ人が日本を離れる際に課税する「出国税(国外転出時課税制度)」が導入された。これにより、1億円以上の金融資産を持つ個人が海外移住する際、含み益に対して20.315%の課税が発生する。
しかし、出国税の導入によって一時的な税収は増えるかもしれないが、長期的に見れば日本の経済成長に悪影響を及ぼす可能性がある。
2-2. 高所得者への増税
近年、日本政府は「所得再分配」や「格差是正」を理由に、高所得者への課税を強化する動きを見せている。しかし、高所得者に対する増税が続けば、彼らはますます日本を離れるだろう。結果として、国内の高額納税者が減少し、逆に税収が減るという本末転倒な事態が生じる可能性がある。日本を離れる理由としては、今後さらに締め付けが厳しくなる可能性を感じるからに他ならない。
2-3. 北風政策の逆効果
締め付けを強化すればするほど、高所得者や富裕層は日本を離れる動機を強める。彼らが海外に移住すれば、その後は日本に税金を納めることはなくなり、国内の経済活動からも離脱する。つまり、「一時的な徴税」はできても、「持続的な税収」を失うことになるのだ。
3. 太陽政策の必要性──高所得者・富裕層が日本にとどまるための施策
3-1. 税制の見直し
高所得者にとって、日本に住み続けることが経済的に魅力的であるような制度設計が必要である。例えば:
- 所得税の最高税率の引き下げ
- 相続税・贈与税の軽減
- 法人税の引き下げによる企業誘致
これらの施策によって、日本国内での経済活動を促進し、高所得者が納税し続ける環境を作ることが重要となる。
3-2. ビジネス環境の改善
海外の投資環境と比較すると、日本の規制は厳しく、新規事業を立ち上げるハードルが高い。起業家や投資家が国内で活動しやすい環境を整えることが、日本経済の成長にもつながる。
- スタートアップ支援の拡充
- 投資減税や優遇措置の強化
- 法人設立手続きの簡素化
こうした施策を講じることで、日本にとどまるインセンティブを提供することができる。
3-3. 国際競争力の強化
シンガポールやドバイのように、外国人投資家や富裕層を積極的に受け入れる政策を採用することで、経済の活性化が期待できる。例えば、日本に一定の投資をした外国人に対して永住権を与える制度などが考えられる。
4. すでに増えつつある海外在住日本人
現在、海外在住の日本人は約130万人を超えており、日本の人口の約1%強にあたる。特に、コロナ前まではこの数が年々増加しており、パンデミックで一時的に減少したものの、その流れは今後も続くと予想される。
日本の将来を考えたとき、この流れを止めることはできなくとも、少なくとも減速させる手段を考えることが重要だ。
5. 日本に必要なのは「北風」ではなく「太陽」
高所得者や富裕層の流出は、日本経済にとって大きな痛手である。単なる「徴税の強化」や「出国税」ではなく、高所得者や富裕層が日本に住み続けたくなるような環境作りが必要だ。
- 過度な累進課税を見直す
- ビジネス環境を改善する
- 富裕層が日本に魅力を感じる政策を導入する
これらの施策が実行されれば、日本は「重税国家」として富裕層を追い出す国ではなく、「経済的自由と安定した生活ができる国」として選ばれる国になるのではないだろうか。
「北風」ではなく「太陽」を掲げることで、日本経済を持続可能な成長へと導くことが求められているように思う。